KJ法の実践


 週末に通っている大学院(JAIST)で、つい先日、KJ法を行う機会があった。KJ法には以前から興味があったが、正当な手法で行ったことは一度もなかったので、とても新鮮で、貴重な経験となった。

※ KJ法とは文化人類学者の川喜田二郎が考案したデータをまとめる為の手法である。データを記述したラベル(カード)をグルーピングして、図解化し、最終的に文章化を行う。KJ法には個人で行う場合と、共同で行う場合があるが、いずれも創造的問題解決に効果があるとされている。

KJ法の手順

KJ法は以下のステップで行われる。必要な用具はラベル(付箋紙などでも代用可能)、マジックペン数色、ロール紙など大きな紙。

1. ラベル (カード)の作成

まとめたいテーマを 決め、ブレインストーミングなどによって、 アイデアをラベル(カード )に書き込む。

2. グループ編成

似たような意味を持っているラベルを集め、グループを作成する。さらに似たような意味を持つグループ同士やラベルを集めさらに大きなグループを作成する。グループには、表札(そのグループを一言で表す言葉)を作成し、一番大きなグループにはシンボル(タイトル)を付ける。

3. 図解化

グループを枠で囲み、グループ間の関係を矢印などを使用して表現する。

4. 文章化

作成した図を説明するために文章を作成する。

実際に私が行ったKJ法の内容

以下に文章化の内容を示す。 テーマは「私が使命を果たすためにJAISTでなすべきことは」である。

1. はじめに

 私がJAISTに入学して、何を学び、何をなすべきか。その問いの答えを導き出すため、KJ法を用いてビジュアライズを行った。はじめに、思いつくことを16個のラベルに記載して、机上に並べた。そしてKJ法の「おのれを空しくして,データの語りかけに最も自然に従ってまとめるのでなければならない」という言葉を意識しながら、分類するのではなく、一つ一つのラベルの志を聞き、志の近いラベル同士でグルーピングを行い、各グループに表札を付けた。表札には単純な名詞ではなく、そのグループの声を一言で言い表せられる言葉とした。さらに2段階、各グループと残りのラベルでグルーピングを行い、表札を付けた。最終的に3つのグループができた。各グループにはシンボルを付けた。シンボルはそのグループを一言で表せられる簡潔な言葉を用い、図1で示すようにそれぞれ「私の使命」「文理超越実践人」「使命を果たすための心構え」とした。

図 1 全体図

 各シンボルの関係性は次のようになる。「私の使命」は最終目標である。使命を果たすための手段として「文理超越実践人」という手段が存在する。また「私の使命」と「文理超越実践人」両方を支えるマインドセットとして「使命を果たすための心構え」が存在する。

2. 私の使命(目的)

 私の使命は、ソフトウェアの力で「自ら学び、考え、歩む社会」を実現することである。この使命は20年以上前から少しも変わってはいない。しかしながらどのようにその使命を実現するかを、深く考え、自分自身の立ち位置を明確にしていく必要がある。具体的にそのために図2で示すように「自分が何をなすべきかよく考える」「ソフトウェア業界の現状を学び、自分のやるべき分野を探す」といったことを挙げており、それらを「自分の使命についてよく考え、実現する」という表札で表現している。使命とは決して他人に与えられるものではなく、自分自身の内なる声を聴き、初めて自覚するものである。そのためには常に自分と向き合い、考えるということがとても重要となる。

図 2 私の使命

 そもそもなぜこのような使命を持つに至ったかについても簡単に触れたい。きっかけは16歳の時にアルバイト代で購入したノートパソコンであった。CPUが486SX/33MHz、メモリが4MB、搭載されているOSはMS-DOS及びかろうじて起動できるWindows 3.1と、今のパソコンと比べると極めて非力なマシンであった。しかし私は衝撃を受けた。この最初は何もできなかったパソコンが、ソフトウェアを追加するだけで、様々なことができるようになっていく。コンピュータソフトウェアというものは、世の中を変える大きな力があると直感的に感じた。そして追い打ちをかけたのがカード型データベースの存在であった。T-CARDという個人の開発したカード型データベースに魅了され、日々学んだことを登録し、整理し、検索する行為が楽しくてしょうがなくなっていった。そして次第に既にある機能だけでは物足りなくなり、自分で理想とするデータベースソフトウェアを作りたいと、独学でプログラミングを始めるようになった。1997年に実際に開発し、フリーウェアとして一般に公開した。スティーブジョブズの「コンピュータは脳の自転車である」という言葉の通り、私もコンピュータ、特にソフトウェアは、人間の能力を最大限に高めるツールとなると感じていた。

図 3 SE-DBMS (1997年に開発したカード型データベースソフトウェア)

 16歳という歳は、私が人生の中で最も悩んだ歳でもあった。毎日のようにノートに自分の考えを書き留め、そして振り返り、自分自答をする日々だった。そのようにしてたどり着いた答えというのが、日々他人によって決められたことをするのではなく、ただ自分自身の好奇心に従って、新しいことを学び、体験し、考え、そして歩んでいくということであった。そして自分が最も可能性を感じているソフトウェアという媒体を通じて、自分自身が感じている喜びを世の中に伝えていくこと、それを自分の使命(職業)としたいということであった。当時は知る由もなかったが、チクセントミハイの言うフロー状態を自ら作ることを試みていた。

3. 文理超越実践人(手段)

 「文理超越実践人」とは文理を超越した知識、スキルを身に着け、かつ実践できるという人間になるということである。先に述べた「私の使命」を果たすためにこの「文理超越実践人」という手段が存在する。具体的には図3で示すように、「創造技法を学び使えるようになる」、「先人の知識を学び、新しい知識を生み出す」、「様々な戦略・理論を学び仕事で実践する」、「研究の型・手法を学び、一人前の研究者になる」、「統計学を学び使えるようになる」、「論理的思考を身に着ける」、「英語を学び、海外へ情報を発信できるようになる」などを挙げており、それらをグルーピングし、「知識創造できる人間になる」、「理論を実践」、「数学的な思考が行えるようになる」という表札で言い表している。

 これらは文系、理系、もしくは社会科学、自然科学、人文科学という枠にとらわれず、幅広い分野の学問を学び、そして実務や研究の場で実践していきたいという私の気持ちが表れている。ここで重要なのは、先に述べた「私の使命」を果たすことが最終目的であり、「様々な戦略、理論を学び、仕事で実践する」ことや、「研究の型・手法を学び、一人前の研究者になる」ということは、目的を実現するための手段と位置付けていることである。

図 4 分離超越実践人

4. 使命を果たすための心構え(マインドセット)

 最後の「使命を果たす心構え」とは、先に述べた私の使命(目的)と文理超越実践人(手段)を支えるためのマインドセットとなるものである。具体的には図4で示す通り、「やりぬく力を身に着ける」「時間の管理能力を高め、有効に使えるようになる」「学ぶ楽しさを知る」「自分自身の哲学を持つ」「自分自身の原理原則を見つける」「良いデザインとは何か考える」「物事をモデル化して考えられるようになる」「一緒に飲みに行ける仲間を作る」などのラベルが挙げられる。これらをグルーピングし、「自分を律し、前向きに生きる」「物事の心理について深く考える」という表札を作成した。

 世の中はとかく複雑である。人間関係も複雑である。そして人生は短い。複雑な世の中を、そのまま受け止めていては、ただ漂流するだけで、あっという間に人生が終わってしまう。自分自身の哲学、原理・原則を持ち、物事の本質をつかむということが大切である。一言でいうと「単純明快」になるということである。自分は何がやりたいのか、その為には何をすればいいのか、物事を単純明快に考えることで、様々な無駄を減らし、思考が軽やかになり、常に一貫した行動がとれるようになる。このようなマインドを持つということである。

図 5 使命を果たすための心構え

4. おわりに

 直感とは単なる思い付きではなく、膨大な知識と思考の相互作用によって生み出される、暗黙知の結晶のようなものではないかと感じた。私の使命は直感によって生まれたが、振り返ると、その背景には長い自問自答の日々があった。また今回のKJ法でも限られた時間ではあったが、志を文字にし、思考を繰り返すことで、今まで見えなかったことが見えるようになり、直感に近いものが得られた感覚があった。

 KJ法には以前から興味があった。というのも私自身、先に述べたカード型データソフトウェアをビジュアル化するという発想で、カードにアイデアや知識を書き込み、それを視覚的に整理するというソフトウェアを独自に開発したことがあった。(このソフトウェアはこれまで40万回以上、ダウンロードされ、今では全世界にユーザが存在する。)

図 6 iroha Note (2009年に開発したカード式情報整理ソフトウェア)

 しかしながら今回の演習で、実際にKJ法を行ってみると、それまで考えていたKJ法とは大きく性質が異なることが分かった。特にラベルをただ形式的に分類するのではなく、ラベル一つ一つの志の声を聞き、同じ志のものを集めること、またそれらを抽象化し、表札を作ることの重要性を知ることができた。そうすることによって、抽象化されたグループとその関係性が見え、全体像が浮かび上がり、自分自身をあたかも別の人間として客観的に見ることができるようになった。その結果、私がJAISTに入学して、何を学び、何をなすべきか、何より何のためにそれをするのかが明確になった。今回得られた答えを胸に、今後のJAISTでの生活を充実したものとしていきたい。

以上

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