SECIモデルとは野中郁次郎氏が、企業の知識創造活動に着目して提唱したナレッジマネジメントのモデルである。SECIモデルは日本の製造業が大躍進を遂げた1980年代に、日本企業の知識創造活動を説明するモデルとして作成され、世界的に広く知られるようになった。
暗黙知と形式知
知識には暗黙知と形式知がある。暗黙知とは言語・文章で表現できない知識である。例えばどのような絵が美しいか、どのように自転車を乗りこなすか、言語で全てを説明することはできない。「我々は語れる以上のことを知っている(ポランニー, 1958)」という言葉があるが、言語で表現できるものは、知識の一部分でしかない。逆に形式知とは言語で表現できる知識である。
暗黙知の特徴
- 経験から得られる。
- 主観的で身体的な知識である。
形式知の特徴
- 外部からデータとして得られる。
- 客観的で理性的な知識である。
よって特に組織においてはこの暗黙知を活用することが重要となってくる。暗黙知を活用するには、個人個人の暗黙知を形式知に変換し、伝達し、形式知から個人個人の暗黙知へと変換する必要がある。この一連のプロセスをモデル化したものがSECIモデルである。
SECIモデル
SECIモデルのプロセスは以下のとおりである。
共同化 | Socialization | 暗黙知から暗黙知へ。経験を通じて暗黙知の作り出し、共有するプロセス。 例えば先輩の仕事のやり方をまねてみて、感覚をつかむことなどがこれに相当する。 |
表出化 | Externalization | 暗黙知から形式知へ。暗黙知から概念やデザインを作り出すプロセス。 例えば日々の失敗例、気づきを文章や図にし、共有可能な形にすることなどがこれに相当する。 |
連結化 | Combination | 形式知から形式知へ。形式知と同士を組み合わせて、知識体系を作り出すプロセス。 例えば個々のレポートや外部の知見を総合的に分析し、新たなマニュアル、知識データベースを作成することなどがこれに相当する。 |
内面化 | Internalization | 形式知から暗黙知へ。形式知を暗黙知へ身体化するプロセス。 内面化とは新しいマニュアルや知識データベースを使って、自分自身で実践していくことに相当する。 |
場
このSECIモデルを円滑に回転させるためには「場」が重要となる。ここでいう場とは物理的空間だけではなく、個々の人間の関係性に成立する意味空間を指す。職場も代表的な場であるが、ミーティングなど一時的に発生するイベントや、社内SNS、電子掲示板、タスク管理ツール、メーリングリストといった仮想空間も場となる。
場を機能させるために「駆動目標」が重要となる。駆動目標とはビジョンと実践を連動させる具体的な目標である。企業にとってビジョンは大切である。しかしビジョンだけでは企業は機能しない。例えばある製薬会社の場合、「全ての人々を健康にする」がビジョンなのに対して、「患者の満足度で世界No1になる」というのが駆動目標となる。
場と駆動目標の関係を図にすると以下のようになる。実践とは形式知を経験によって暗黙知にすることである。例えば開発したプロトタイプを使って実際にユーザテストを行うことを指す。対話とは暗黙知を形式知化して共有することである。例えばユーザテストで得られた様々な気づきを文章化し、社内で共有することを指している。この対話と実践とスパイラルは駆動目標があることで機能する。
現在、システム開発の場で注目されているアジャイル開発のスクラムも、このSECIモデルがベースとなっているといわれている。
参考文献
- 野中郁次郎・遠山亮子・平田透, 『流れを経営する』, 東洋経済新報社, 2010